通信傍受法に新たに9犯罪追加法案提出の見通しについて!?

7月 2, 2014 · Posted in 社会ニューストピックス!? · Comment 

 先日法制審議会の特別部会が開催され、犯罪捜査のための通信傍受に関する法律について現行法案の対象犯罪に新たに9種類の犯罪が対象追加予定として、来年をめどに通常国会に法案提出を迎えることになりました。今回はこの法案について私なりの見解を交えて書いていこうと思います。
 まずは「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律」とはなんでしょうか。
 これは対象の「犯罪」によって平穏かつ健全な社会生活を害しており、複数の者により共謀される「組織的な殺人」、「薬物の不正取引にかかる犯罪」「銃器の不正取引にかかる犯罪」その他「不正出入国(密入国)にかかる犯罪」に対して刑事訴訟法に基づく「気通信の傍受を行う強制の処分」によって憲法第21条の通信の秘密を不当に侵害することなく犯罪の真相の究明を行うための法律です。この法律は2000年に施行され現行全32条からなり傍受対象の犯罪及び通信、傍受のための礼状請求の手続き、傍受後の手続きと通信当事者への通知等をこの法律で定めています。
 さて今回の法制審議会の特別部会では上記の4種類の対象犯罪に加え新たに以下の9種類の犯罪を加えることになりました。 更に今回の法案改正では取調べの録音・録画を裁判員裁判対象事件と検察の独自捜査事件で義務付ける案による捜査の可視化や容疑者が捜査機関に協力すれば刑を軽くする「司法取引」の案の追加、傍受への電気通信事業者等の通信管理者又は地方公共団体職員の立会いは不要にする方向で国会への法案提出を進めています。
 傍受法の現行傍受対象犯罪及び追加予定対象犯罪は次のとおりです。

【現行傍受対象犯罪】
1. 組織的な犯罪
・組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律にかかる罪
2. 薬物の不正取引にかかる犯罪
 ・大麻取締役法
 ・覚せい剤取締役法にかかる罪若しくは未遂罪
 ・向精神薬取締役法にかかる罪
 ・あへん法にかかる罪
 ・国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律にかかる罪
3. 不正出入国にかかる犯罪
 ・出入国管理及び難民認定法にかかる罪
 ・集団密航者にかかる輸送の罪
 ・集団密航者の収受の罪
4. 銃器不正取引にかかる犯罪
 ・武器等製造法にかかる罪
 ・銃砲刀剣類所持等取締法にかかる罪

【追加対象犯罪】
1. 現住建造物等放火
2.殺人
3.傷害
4.逮捕監禁
5.誘拐・人身売買
6.窃盗、強盗
7.詐欺、恐喝
8.爆発物使用
9.児童ポルノの製造・提供

 さて今回の対象犯罪の追加及び捜査の可視化について世論ではどのように考えているのでしょうか。今回の法案提出における争点は次の点だと考えます。

【通信傍受の9犯罪追加及び取り調べの可視化における予想される争点】

1.今回の傍受犯罪対象追加によって増加しえる冤罪について
2.傍受犯罪対象拡大による増加する通信当事者への侵害について
3.可視化による公正な取調べと反面ではそれによって起こりうる捜査の妨げについて
4.傍受すべき通信に該当するかどうかの慎重な判断と反面では迅速な合理的な傍受捜査令状の発布手続きについて

 今回の犯罪対象の追加によって間違いなく増加する可能性があるとされているのが冤罪の増加です。この問題に対しては傍受後の取り調べを上記による可視化を することで適正な取調べを行い冤罪をなくす案を提出するとの話ですが、傍受対象犯罪の拡大に対して、その情報元が傍受であり虚偽の情報も多く取調べは困難になってしまう可能性も多いのでは、更にはそれによる冤罪となってしまう事件が増える可能性は否めません。現行案では対象の犯罪を絞って通信傍受を行える 措置を行ってきました。しかし今回の犯罪対象拡大することでその可能性が増加することを世論でも恐れているようです。

 次に通信当事者への侵害の問題です。今回の法案が通れば犯罪を未然に防ぐための捜査方法が拡大することで犯罪によって平穏な生活が害されることは少なくな ると思われます。しかしその反面、犯罪を未然に防ぐためとはいえそれによって起こりえる当事者への通信傍受による侵害は拡大され通信傍受によって平穏な生 活が乱されてしまうこともありえます。通信傍受の判断、傍受礼状請求の手続き及び傍受期間等に対しもっと慎重に検討すべきなのではないかと私は考えます。例えば通信を傍受期間ですが、現行通信傍受は通常10日以内で礼状を発することが可能であり延長が認められれば継続して最大30日間まで傍受が可能です。 更に傍受終了後は三十日以内、捜査を妨げられるおそれがある場合には60日間以内に当事者への通知がこの法律で定められています。この期間の当事者への精 神的苦痛なども考えると犯罪対象によって傍受期間の短縮を図ることも必要なのではないかと思われます。通信当事者への配慮などもっと検討すべきかと考えられます。

 可視化による公正な取調べと反面ではそれによって起こりうる捜査の妨げとは今回の可視化を行うことで反面では迅速な捜査の妨げになるのではないかと警察機関は考えているようです。特に急迫した事態では被害の拡大を防ぐためには迅速な捜査が必要です。しかし今回の今回の取調べの録音・録画を裁判員裁判対象事件と検察の独自捜査事件で義務付ける案はそういった捜査の障害になってしまう恐れがあるようです。

 4つ目の傍受すべき通信に該当するかどうかの慎重な判断と反面では迅速で合理的な傍受捜査令状の発布手続きに関しては通信当事者への侵害を考慮して傍受対象を慎重に選別し判断するということと迅速な判断を行い合理的な捜査手続きを円滑に進めるという上述した「捜査の可視化」と同様に相反する性質を持ちます。この点に関しては私としては傍受によって起こりうる様々な侵害を防ぐために該当の通信について慎重な判断を願うばか りです。

 私としては今回の法案については犯罪を罰するための刑法のテーマともいうべき人権保障と法益保護の観点に似通った非常に複雑で難しい問題を持っていると考えています。この性質を考慮に入れながら今後の法案改正への動きを見つめていこうと考えます。

【犯罪捜査のための通信傍受に関する法律】
第一章 総則 第一条 目的 この法律は、組織的な犯罪が平穏かつ健全な社会生活をいちぢるしく害していることにかんがみ、数人の共謀によって実行される組織的な殺人、薬物および銃器の不正取引にかかる犯罪等の重大な犯罪において、犯人間の相互連絡等に用いられる電話その他の電気通信の傍受を行わなければ事案の真相を解明することがいちぢるしく困難な場合が増加する状況にあることを踏まえ、これを適切に対処するため必要な刑事訴訟法に規定する電気通信の傍受を行う強制の処分に関し、通信の秘密を不当に侵害することなく事案の真相に的確な解明に資するよう、その用件、手続きその他必要な事項を定めることを目的とする。

第二条 定義 この法律において「通信」とは電話その他の電気通信であって、その伝送路の全部もしくは一部が有線(有線以外の方式で電波その他の電磁波を送り、または受けるための電気設備に附属する有線を除く。)であるもの又はその伝送路に交換設備があるものをいう。 2 この法律において「傍受」とは、現に行われている他人間の通信について、その内容をしるため、当該通信の当事者のいずれの同意も得ないで、これを受けることをいう。 3 この法律において「通信事業者等」とは、電気通信を行うための設備(以下「電気通信設備」という。)を用いて他人の通信を媒介し、その他電気通信設備を他人の通信の用に供する事業を営む者及びそれ以外の者であって自己の業務のために不特定又は多数の者の通信を媒介することのできる電気通信設備を設置している者をいう。